♪ 父と私のラララ

朝、祈りの園生に入ると、カーテンをゆっくり開ける。やわらかな光が部屋に広がる。

「お父さん、お母さん、おはようございます。とてもいい天気ですよ〜」

父とは、朝のあいさつを歌で交わすことが多い。

「🎵 朝です、朝です、日曜日です」
「あ〜、いい天気だね」
「🎵 朝です、朝です、日曜日、
さぁ〜教会へ行きましょう」

そんなふうに、私たちの一日は始まる。

ここは祈りの園生。父が昔よく歌っていた讃美歌を、今日は私が少しだけ先に口ずさむ。すると父は目を上げ、声を重ねる。声の出だしは少し自由で、歌詞も時どき変わる。それは、その瞬間に父の内から生まれてきたもの。父の言葉は、祈りからこぼれ落ちる光の雫。

父と私のラララ。すべてを歌わなくてもいい。父は覚えているところを、自分の調子で歌う。私は少しだけ先を歩いて、父が追いつける速さに合わせる。父は自分のテンポで戻ってきて、メロディーの芯を外さない。祈りの園生の一室が、私たちの舞台になる。スポットライトは朝の光。

舞台袖には、母がいる。ただ、そっと見守っている。拍手もアンコールもない。それでも私の胸の内側では、席が静かに埋まっていく。こころは満席。言葉が少なくなっても、歌は父の中で生きている。

父と目を合わせ、呼吸を合わせて歌う。ときどきストップする。その間もちゃんとつながっている。それでも父には、じゅうぶん。

夕暮れどき、暖灯がともる。声は少し小さくなる。一日の舞台が、やわらかく終わっていく。今日も静かに幕が下りる。また朝になれば、きっとラララが始まる。

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この記事を書いた人

90代の両親の介護をしながら、
日々のことを綴っています。

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