전복죽(チョンボクチュク)の祈り

父の食事量が、少しずつ減ってきました。たくさん食べられなくなった、というより、ひと口ひと口に、前よりも少し時間がかかるようになった。そんな変化です。

そんな父のために、以前から祈りのうちに親しくしてきた、韓国の宣教師の先生ご夫妻が、わが家を訪ねてくださいました。この時のためにと、あわび粥の材料を持ってきてくださり、ゲストルームの台所で作って、ご持参くださいました。

できあがったお粥を、鍋ごと。それを、風呂敷でそっと包み、湯気の残るうちに、わが家の両親のところへ、
お見舞いに来てくださいました。風呂敷の結び目には、言葉にならない優しさが、結ばれているように見えました。

ただ静かに差し出される温かさ。その温かさに、胸がやわらぎます。奥さまが風呂敷をひろげ、鍋のふたを開けた瞬間、ふわっと立つ湯気。あわびの香り。そして、うすい緑色のお粥。その温かいお粥を、そっと器によそって、手渡してくださいました。言葉にならないものが、愛と一緒に、お粥の中にありました。

韓国では、あわび粥は전복죽(チョンボクチュク)と呼ばれ、体調を崩したときや、お見舞いの場で、大切にされてきたお粥だそうです。あわびの内臓を使うことで、ほんのりとした緑色になるのも、特徴なのだとか。「お粥の王様」とも呼ばれているそうです。

韓国から訪ねてきてくださった先生ご夫妻。ソウルと福岡は、約540km。飛行機なら、あっという間の近さです。けれど、今の両親には、その道のりを旅することはできません。それでも、両親のもとへ、温かいお粥が、愛とともに届きました。

父は、手を動かすことが難しくなっています。私は器を受け取り、父のそばでお粥を差し出しました。「お父さんのために、あわび粥を作ってくださいましたよ」そう声をかけると、父は、ゆっくりこちらを見て、にっこりと。そして、ひと口。

「……美味しい」

思いがけず、大きな声でした。その瞬間、宣教師の先生ご夫妻も、母も、弟のお嫁さんも、私たち全員が、手を叩いて喜びました。うれしかった。それで十分でした。

海を越えてやってきたそのお粥には、両親のもとへ向けられた祈りが、込められているように感じました。その祈りに、私たちの心が触れて、心に、愛の花を咲かせてくれました。まるでムクゲ(무궁화/ムグンファ)、「尽きることのない花」のように。

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この記事を書いた人

90代の両親の介護をしながら、
日々のことを綴っています。

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