おいしく、楽しく、そしてたんぱく質
父は一日の多くをベッドの上で過ごしています。訪問看護師さんが褥瘡(床ずれ)の予防に丁寧に関わってくださり、エアーマットのおかげで背中やおしりの皮膚もきれいに守られています。私も日々の介護の中で、少しでも快適に過ごせるよう工夫を重ねています。
その中で大切にしているのが「食べること」。ただ栄養を摂るだけでなく、「おいしいね」と顔を見合わせる時間は、父の力になり、私の心もあたためてくれるのだと思います。
朝は、たんぱく質を補えるゼリー状の栄養食を器に移し、一匙ずつすくって口へ。嚥下(飲み込み)が心配な父にとっても負担が少なく、安心して食べられる形です。“メイバランス”という栄養ゼリーを上手に取り入れながら、その日の体調に合わせて味や量を工夫しています。
昼は、たんぱく質を意識したヨーグルトに、よく熟れたバナナをつぶして混ぜ合わせます。ヨーグルトだけでおよそ15g、バナナを合わせると約16gのたんぱく質になります。甘すぎず、自然な酸味と果物の香りがちょうどよく、父も「美味しい」「いいねぇ~」と笑顔を見せてくれます。特にお気に入りはマンゴー風味。朝と昼を合わせると、高齢男性の推奨量60gの3分の1を超えるたんぱく質を摂ることができます。

夜は焼き魚や煮魚、豆腐、卵、鶏肉のつみれなどを中心に。刺身が好きだった父のために、魚屋さんで特別に冷凍庫から出してもらったねぎとろをお粥にのせて。「高齢者は食中毒が命にかかわるので、必ず冷凍から」とお願いしている一品です。ねぎとろ丼だけで19〜20gのたんぱく質が摂れます。
そして一日の終わりには、父と私が一緒に味わうアイスの時間があります。苦い薬を飲んだあと、「お父さん、今日も一日、本当にお疲れさまでした」と目を合わせておじぎしながら差し出すスーパーカップ。実はこのアイスには たんぱく質が5.6g ——玉子Sサイズ1個分に相当します。
「アイスなのにこんなに!」と驚きつつ、ふたりで「美味しいね」と笑い合うひとときは、介護の中でかけがえのない感謝の時間です。今日も生き抜いてくれた父へ、そっと心からのありがとうを込めながら。

母も、体は少し弱ってきていますが、朝は今も変わらずしっかり食べています。プロテインを溶かした牛乳に、卵やチーズ、パン、バナナ——ほとんど同じ朝食を続けていて、たんぱく質は朝だけでおよそ41g。
昼のうどんと角天を合わせると、朝昼で50gを超え、高齢女性の一日推奨量を無理なく満たしています。体が思うように動かない日もありますが、その習慣を守る姿に私も深く励まされています。
そして母にも、ささやかな「おいしい楽しみ」があります。食事がすんだあと、私は声をかけます。「お母さん、アイス食べますか?」すると母は、「いいの〜」と弾むような声でうれしそうに笑います。一日の最後に味わう、ガツンとみかんの棒アイス。たんぱく質は0.1gほどでも、冷たくて甘酸っぱいそのひと口は、ご褒美というより、老いを生き抜く母への小さなねぎらい。
「お母さん、今日も一日、本当にお疲れさまでした」という気持ちを込めてそっと渡しています。
それは、父のスーパーカップと同じように、わが家の一日の“しあわせのしめくくり”です。栄養の工夫ももちろん大切ですが、それ以上に「美味しいね」「楽しいね」と分かち合うことが、私たち家族の日々を支えてくれているのだと感じています。

