要介護でも大丈夫。わが家の食卓が特別な朝カフェに
朝の食卓には、母の好きな定番のメニューが並びます。牛乳に溶かしたプロテインと野菜ジュース。トーストにジャムをのせ、卵料理を添えて、チーズとバナナを一緒に。視力が弱い母が安心して食べられるように、マグカップなどに手を添えて位置を示しながら、「これがプロテイン、その隣に野菜ジュース、次に卵、トースト、チーズ、バナナ」と口で説明していきます。母はそれを頼りに、左から順に食べ進めていきます。

そんな洋食の朝がわが家の定番になっていますが、ときにはひき割り納豆に鮭フレークをのせたごはんを用意することもあります。和食の朝もまた、母にとって楽しみのひとつです。
フォークもカップも介護用のプラスチックで、見た目は味気がありません。けれど、その軽さと扱いやすさが母に安心を与えていきます。器がおしゃれでなくても、ここにはわが家だけのぬくもりがあります。
母の食事と薬、歯磨きがひと息つくころ、今度は父の食事の番になっていきます。父には、おかゆに、好きでよく食卓にあがっていた骨のない塩サバをやわらかく焼いてほぐしてのせます。細かく刻んだ野菜を混ぜた炒り卵や、かぼちゃの煮物も喜んで食べます。栄養を補うメイバランス、そしてトロミをつけた野菜ジュースを添えて。
このごろは食事に時間がかかるようになってきましたが、食欲が出るように少しずつメニューに工夫をしながら、スプーンで口元に運んでいきます。すると父は「おいしいよ」と優しく答えてくれます。焼きたてのパンの香りや、冷たいジュースの爽やかさ。窓から射し込む夏の光と重なり、静かな賛美歌のBGMが食卓をやさしく包んでいきます。

夕方になると、父は疲れて返事をするのもしんどくなり、まばたきで気持ちを伝える日もあります。だからこそ、朝に聞ける「おいしいよ」が、より一層心に響く大切な言葉なのです。「わたしたちの日ごとの糧を今日もお与えください」主の祈りのこの言葉が、静かな朝の食卓にそっと重なっていきます。プラスチックの器に並ぶいつもの食事にも、神さまの恵みが静かに満ちています。
そんな一日の始まりに――
わが家の朝カフェ、今日もオープン。