♪バースデイソングが誕生日プレゼント

今日は、母の誕生日です。九十一歳になりました。

「明日はお母さんの誕生日ですよ」そう父に伝えると、父は、顔をくしゃくしゃにして笑っていました。少し照れたようで、うれしさを隠しきれない顔。目には、うっすら涙も浮かんでいて。言葉は多くありませんが、その表情だけで、父の胸の奥にあるものが、こちらに届いてくる感じがして。

祈りの園生(そのう)での暮らしは、日々の介護とともにあります。父は要介護5、母は要介護3。体調や気分に合わせて一日の流れを整えながら、家族と支えてくださる方々と共に、この家での生活を続けています。
今年の母の誕生日には、多くの方々から贈り物が届き、祝っていただきました。

その日のことでした。「お父さん、今日は一緒に、お母さんにハッピーバースデーを歌いましょうね」そう声をかけると、父は、少し間をおいて、ゆっくりとうなずきました。

晩年になってからも、父は出張に出るたび、必ず母にお土産を買って帰っていました。毎年の誕生日にも。誕生日の夜。一日が静かに終わろうとする時間。祈りの園生(そのう)は、いつも通り、あたたかな色の灯りでした。寝る前に、父と一緒に、母に向かってバースデイソングを歌いました。

毎年、誕生日は、わたしのウクレレの伴奏で歌ってきました。でも今年は、なぜか、父が主役のバースデイソングにしたくて。父の声は大きく、音程がきれいに揃っているわけでもなく、途中で、少し途切れることもあって。それでも、その声は、まっすぐ、母のほうへ。静けさの中に、あたたかな声がひびきます。一つひとつの音が、部屋の空気を、ゆっくり包み込んでいくようで。歌い終えると、父は、にっこりと笑っていました。

母は、何も言わず、目を閉じて、歌が終わるまで、そのままで。そのとき、これが父からのプレゼントなのだと、ふっと。包装紙やリボンのかからない、ハッピーバースデー。形として残るものではなく、この夜、この声、この時間が、父から母へ。静けさの中でひびいた、あたたかな声。こころの中のロウソクに、ぽっと。母に新しい一日が刻まれました。父と一緒に。

九十一回目の誕生日の、静かな夜。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

90代の両親の介護をしながら、
日々のことを綴っています。

目次