ぬくもりの手がそっと ー 訪問看護と母の入浴の日

朝の空気に寒さが混じるようになりました。その冷たさをやわらげるように、浴室を早めに温めます。あの小さな湯けむりの向こうで、母がほっと息をつけるように。

訪問看護師さんが来られると、まず体の状態をやさしく確かめてくださいます。体温、血圧、脈拍、酸素の数値、いわゆる「バイタルサイン」を測りながら、その日の体調を見守るように記していきます。

母はペースメーカーを入れているので、主治医の先生の注意にしたがい、入浴のときも、身体に異変がないか、むくみはないか、細やかに気を配ってくださっています。

母は目がよく見えません。だから、湯けむりの中で看護師さんが手を引いてくださるとき、その手のあたたかさが、母にはきっと光のように感じられているのでしょう。私の胸の奥まで、静かにぬくもりが広がっていきます。

看護師さんは二人で、交代で来てくださっています。お一人は循環器科(心臓の科)で、もうお一人は脳神経外科で働かれていたそう。どちらもまだ若いのに、母の前では不思議なほど落ち着いたまなざし。経験の違うお二人が、それぞれの手で母を包んでくださる姿に、言葉にならない感謝があふれます。

お風呂あがりは、保湿液とお薬を塗ってもらいながら、母の肌がうっすら桜色に。
「気持ちよかったですね」
「すっきりしましたね」
笑い声が、温められた部屋の空気に溶けていきます。

そのあと、小さなアイスを一緒に。お風呂あがりの冷たい甘さが、母にも看護師さんにも小さなごほうび。爪を切ってもらい、耳掃除もしていただくと、母の顔にやさしい笑みが浮かびます。

看護師さんのぬくもりの手が、今日も母の一日をそっと包んでくれている。その光景を見ているだけで、私の心まで、静かにあたたまっていくのです。

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