母が目覚めるまでの、短いひととき。
私の時間。
Christian Jazz Cafeを小さく流しながら、お気に入りの大きな薄ピンクのマグカップに、カフェオレをたっぷり注ぐ。
一口つけて、目を閉じる。
ふーっ。
シュガーバインの小さな緑を眺めながら、もう一口。葉先が、朝の光を少し受けている。

もう一度、ふーっ。
カフェオレに、一雫のため息をそっと落とすと、それはいつのまにか、「わかってるよ」と包んでくれるような、私だけのカフェオレになっていく。
今朝の母のメニューは、牛乳と、やわらかデニッシュのちぎりパン。スクランブルエッグにハムを添えて、レーズン入りのカボチャサラダ、バナナとキウイを盛りつける。
朝の白いテーブルに、やさしい色が少しずつ増えていく。母の椅子には、背中が少しでも楽になるようにクッションを入れる。
ゆったり座れるように整えてから、ひとり小さく、
「よし!」
今日の朝ごはん、準備完了。祈りの園生に入って、カーテンを開ける。
「お母さん、おはよう」
父の好きだった賛美歌「祈りの園生」を小さく流す。母は祈りをささげ、身支度をする。席に着くまで、ゆっくり一時間近く。
その時間も、母の朝。
母が席に着くころ、牛乳を少し温める。やわらかデニッシュのちぎりパンも、トースターでほんの少しだけ温める。
母が、いつものように朝食の祈りをささげる。祈りの中で、
「作られた愛の労に感謝します。その労にお報いください」
そう祈られるたびに、私は少し恥ずかしくなる。
母のそばに座って、ひと口ずつ朝ごはんをすすめる。食べる速さも、飲み込むタイミングも、母の時間。次のひと口を近づけると、母はそっと口を開ける。
昔、私が小さかったころ、きっと母もこうして、私の口もとを見ながら待ってくれていたのだろう。
今度は、私の番。かわりばんこだね。

そんな朝の中で、ふと思う。
いま、幸せ。
この時間も、いつか振り返ったら、
きっと、幸せ。
ふっと、心にサングラスがかかる日もある。それなら、無理に外さなくてもいい。かけたままでいい。そのサングラスが、今の心をそっと守ってくれているのかもしれない。
……時がたって、
どこかで小さな声がする。
いま、幸せ。
きっと、幸せ。
その声が聞こえたら、サングラスを、ほんの少しだけずらしてみる。すると、白黒に見えていた朝に、少しずつ、淡い色が戻ってくる。
薄ピンクのマグカップ。シュガーバインの小さな緑。母が、次のひと口を待つ口もと。白黒だった時間に、いつのまにか、優しい水彩画のような色がにじんでいく。
そうしたら、温かなハーブティーを淹れる。はちみつも、少し入れて。ひと口飲むと、心の奥がふっとゆるむ。
母を思いやる心。やさしいまなざし。やわらかな言葉。そっと握る手。そのぬくもりを、明日の私にも、少し残せますように。祈りを添えて。
いま、幸せ。
きっと、幸せ。
