父の誕生日と、一枚のTシャツ

父が天に召されて、初めて迎える父の誕生日。

父が天に召されてから、日に日に寂しさが増してきました。

「お父さん、いないと寂しいね」

「会いたいね」

母とそんな話をすることが増えました。

部屋に飾っている父の写真を見ながら、

「お父さん、元気かな?」

と、つい口にしてしまいます。

天に召されるまでの1年余り、寝たきりだった父。

だからでしょうか。

今は元気にしているかな、なんて思ってしまうのです。

以前、弟が説教の中で、

「天国が待ち合わせ場所」

と話していたことを思い出します。

お父さん、また会おうね。

昨年の父の誕生日は、寝たきりになっていた父と、お祝いにいただいたプリンで、ささやかにお祝いしました。

その前年、2年前の誕生日。

父はまだとても元気でした。

孫が「おじいちゃんと一緒に歌おう」と、ギターを持ってきてくれました。

すると父が突然、手拍子をしながら賛美歌を歌い始めました。

父の愛唱歌の一つ、

「いつかは知らねど」。

父の手拍子につられて、みんなも一緒に歌い始めました。

その様子がなんとも微笑ましくて、私は携帯で動画に撮っていました。

テーブルには、弟のお嫁さんのお母さまが腕によりをかけて作ってくださった、ちらし寿司に天ぷら、茶碗蒸し。

どれも父の好物ばかりです。

教会の皆さまからいただいたフルーツやケーキも、ところ狭しと並んでいました。

父が天に召されてから、あの日の動画を何度も何度も見ています。

手拍子をする父。

賛美歌を歌う父。

家族に囲まれている父。

動画の中には、今もあの日の父がいます。

今年は、天に召された父を想いながら、還暦を迎えた弟のお祝いも一緒にすることになりました。

孫の好きなピザやケンタッキーフライドチキン、お寿司にぶどう。

家族が集まると、食卓もにぎやかになりました。

その頃、母はベッドに横になっていました。

父が天に召されてから、寂しそうにしていることも多く、このところ少し食も落ちています。

私は少し前に、そんな母の様子をお嫁さんにも話していました。

そのことを心に留めていてくれたのでしょうか。

お嫁さんは、ベッドに横になっている母のところへ行きました。

枕元で優しく話しかけると、母はゆっくり体を起こしました。

そして、お嫁さんが母に手渡してくれたのは、一枚のTシャツでした。

淡い黄色に、やさしい色合いの花々が描かれたTシャツ。

思いがけないプレゼントに、母も私もびっくりしました。

父を想って集まった日でしたが、お嫁さんは、今ここにいる母のこともちゃんと見ていてくれたんだな、と思いました。

「お母さんのことも、大切に思っていますよ」

そんな気持ちまで一緒に、母に手渡してくれたように思えました。

お嫁さんは、これまでも父や母に何かを贈る時、それぞれに何が似合うかを考えながら選んでくれました。

お嫁さんが選んでくれるものは、いつも父や母によく似合っていて、さすがだなあと思います。

母がTシャツに袖を通すと、やさしい花柄が、柔らかな母の雰囲気にぴったりでした。

「よく似合われますよ」

お嫁さんが優しく声をかけると、母も嬉しそうです。

そのあと母は、みんなと一緒にお祝いの膳につきました。

このところ少し食が落ちていましたが、この日は美味しそうに食べていました。

さっきまでベッドに横になっていた母が、みんなと一緒に食卓を囲んで、美味しそうに食べている。

それだけで、なんだか嬉しくなりました。

そんな思いやりが、寂しい心をふわっと温かく包んでくれる。

冷えていた心に体温が戻り、気がつけば笑顔になっている。

派手なパフォーマンスではなく、

誰かに見せるためでもなく、

気がつけば、そっと寄り添ってくれている。

お父さん。

お母さんは頑張っていますよ。

もうしばらくの間、

みんなでお母さんを守って行きますね。

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